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熱中症はなぜ起こる?正しい熱中症対策方法を解説

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これから暑くなる季節ですね。屋外で運動する際には、熱中症に気を付けなければなりません。よく聞く病気として有名な熱中症ですが、なかなか正確な知識を獲得し、正しい予防行動をとることが出来ている人は少ないのではないでしょうか。この記事では、熱中症についての科学的な理解を深め、それに応じた対策方法を提示していきたいと思います。

そもそも熱中症の原因は何?

熱中症の対策を知るには、まず熱中症の原因をしっかり学ぶ必要があります。この章では熱中症の概要を説明し、それぞれの原因について専門的な医学知識を出来るだけ排除し、高校化学で理解できる水準に落とし込んで説明していきます。

熱中症とは、高温・多湿の環境下で運動や作業を行うときに見られる全身性の温熱障害のことです。体内の蓄熱量が増加して、放熱が追い付かない場合、循環機能の障害、水分・電解質代謝の異常により発生します。循環機能というのは、心臓から動脈血が送り出されて全身を回って、静脈血となって肺を経由して心臓へ戻ってくるというサイクルのことです。

放熱のしくみ

放熱が追い付かない場合、身体が高温状態となって、熱による臓器障害が起こります。そもそも身体の放熱の仕組みを理解しましょう。

身体が熱くなってくると、ヒトは汗をかきます。汗はエクリン汗腺という皮膚の付属器から分泌されます。唇を除く全身の皮膚に分布していて、特に手のひら、足の裏、脇に多く分布しています。手汗をよくかくのは、エクリン汗腺が手のひらに多いからなのです。紙がふやけて文字が書けなくなるくらい手汗をかく場合は、多汗症という疾患の可能性がありますので、手汗が多すぎる場合は要注意です。

エクリン腺から分泌された汗が蒸発するときに、身体は冷却されます。汗をかくだけで身体が冷却される仕組みは高校化学で習う熱化学方程式で理解することができます。
水の蒸発の熱化学方程式は以下の通りです。

H_2 O(液)=H_2 O(気)-44kJ

汗は厳密には純然たる水ではないので、蒸発熱は正確な44kJではないのですが、ここでは水の蒸発が吸熱反応であることを理解してほしいです。固体→液体→気体と変化するにしたがって水はエネルギーが上昇します。したがって、エネルギーが低い状態から高い状態になるには、エネルギーを吸収するため、吸熱反応となります。大まかな理解としては、加熱が必要な状態変化は吸熱反応、冷却が必要な変化は発熱反応と考えて大丈夫です。

この放熱の仕組みからある事実が浮かび上がります。汗をかいたらタオルでぬぐいなさいと言われた経験はみなさんあると思います。しかし、汗が蒸発する前に拭き取ってしまうと、上記の吸熱反応が起こらず、体内に熱がこもってしまいます。汗をかいたら体温が低下するなどと言っている人が散見されますが、厳密にはかいた汗が蒸発して初めて体温が低下します。冷たい飲み物を飲めば、体温が低下すると考える人がいますが、水の比熱を考えると、蒸発熱よりはるかに小さな値であることが容易に想像できると思います。もし、冷たい飲み物を飲むことによって体温の低下を図る場合、相当な量の冷たい飲み物を飲む必要があり、非現実的であることが分かると思います。

もちろん、汗をダラダラにかいていて、見た目が不衛生に見えるレベルであれば、汗をぬぐうことも必要になってきますが、ほんのわずか汗ばんだだけですぐ拭き取ってしまうと、せっかく体内の温度上昇を検知して汗をかいてくれているのに意味がなくなってしまいます。

循環機能の障害について

成人男性の場合、人体の約60%は水分です。乳児の場合、70%にもなります。高齢者や女性は50%前後です。話を分かりやすくするため、身体の60%が水分だとします。体内にある水分の事を体液といいますが、体液には、細胞内にいるものと細胞外にいるものの2種類があります。

1つ目は、細胞内液といい、細胞膜の内側に含まれる体液のことです。体重の40%が細胞内に含まれる細胞内液です。

2つ目は、細胞外液といいます。血管内に存在する血漿と、血管にも細胞内にもない間質というところに存在する組織間液というものがあります。

脱水が起こると、細胞外液が減少し、血漿と組織間液が減少します。その結果、循環血流量が減少し、めまい、顔面蒼白といったさまざまな問題が発生します。

水分、電解質の異常について

先ほど、汗は純粋な水ではないとお伝えしましたが、汗の組成について詳しく学んでいきましょう。
細胞外液、つまり組織間液と血漿はNaイオンを多く含む液体です。汗をかくと、細胞外液が減少します。その結果、純粋な水ではなく多量のNaイオンや、Clイオン、HCO₃イオンなどが減少します。

細胞内液と細胞外液は細胞膜によって仕切られており、Naイオンの濃度は大きく異なります。一方、組織間液と血漿は血管の壁によって隔てられていますが、Naイオンは自由に通過することができます。

この関係性は、高校化学で習う半透膜と浸透圧の関係性から理解することができます。

半透膜を通過できない溶質(例えば高分子量タンパク質)において、濃度の低い溶液と高い溶液が半透膜を隔てて分けられている場合、濃度の低い溶液の水が濃度の高い溶液に移動して濃度差をなくす方向性に動きます。

一方、半透膜を通過できる溶質(例えばイオン)であれば、半透膜を介した水のやり取りではなく、単純に半透膜を溶質が通過する拡散が起こるだけです。

さて、高校化学の復習はここまでにして、この話を細胞外液と血管壁、細胞膜の関係に応用してみましょう。Naイオンは細胞膜を通過することは出来ませんが、血管壁は自由に通過することができます。一方、アルブミンというタンパク質は、細胞膜も血管壁も移動することが出来ません。

アルブミンを考慮すると話がかなり複雑になるので、ここでは溶質をNaイオンのみとして考えていきます。

汗をかいた後、水分補給を純粋な水のみで行ったとします。汗をかくと細胞外液を喪失し、水だけではなく、Naイオンも減少します。しかし、補給される液体が水のみであった場合、発汗によって失われたNaイオンを補うことが出来ず、細胞外液中のNaイオン濃度は低下します。すると、細胞内液と細胞外液の間にある細胞膜おいて、溶質であるNaイオンの浸透圧差により、細胞外液から細胞内液に水が移動します。さらに純粋な水のみを摂取し続けると、細胞外液のNaイオン濃度が低い状態が保たれ、低ナトリウム血症となります。

低ナトリウム血症になると、頭痛、悪心、嘔吐、脱力、けいれん、傾眠、昏睡などの重篤な症状を引き起こします。健康のためと言ってスポーツドリンクを飲まずに真水のみを摂取している人は、脱水→低ナトリウム血症という流れになってしまう恐れがあるので要注意です。

理想は、細胞外液と似た成分の液体を摂取することです。経口補水液は、理想的な成分の配分になっています(味がイマイチなので常用するのは厳しいですが、緊急時には非常に役に立ちます)。

ここまで、熱中症の原因を探ってきました。ここから先は、熱中症の症状(厳密には病態といいます)を理解していきましょう。

熱中症の症状

熱中症の症状の種類

熱中症の症状の種類は主に3種類あります。熱けいれん、熱虚脱、熱射病です。

1つ目の熱けいれんとは、高温下で大変な作業や運動を行っていて、大量の汗をかいているにもかかわらず、塩分を適切に摂取しないと起こります。~水分、電解質の異常について~でお伝えした通り、血液中の電解質濃度が低下して、ナトリウムが欠乏します。すると、過度に使用された筋肉に痛みを伴うけいれんが見られます。この場合でも、体温は変化しないか上昇してもわずかであることが多く、血圧の変化も少なく、意識のはっきりしています。

2つ目の熱虚脱とは、脱水による循環血液量の減少、皮膚(末梢)血管拡張による皮膚血流量の増加によって血液の流れが低下することにより起こります。倦怠感、脱力感、めまい、顔面蒼白といった虚脱状態に陥ります。この場合、体温は正常か微熱程度であることが多く、意識障害はほとんどありません。

3つ目の熱射病とは、高温により熱くなりすぎた状態が続き、熱の放熱が追い付かない状態を指します。こうなると、~放熱のしくみ~でお伝えしたような発汗による体温調節機能が破たんします。症状としては、頭痛、めまい、吐き気、動悸、最悪の場合、40度以上の体温を経て、意識の消失が見られることもあります。

熱中症の重症度分類

熱中症は、日陰でしばらく休んで水分補給しておけば大丈夫という安直な考えをされている方が多いのではないでしょうか。しかし、実際は医療機関を受診すべきケースであったり、救急搬送を要請しなければならないケースであったりするので、重症度の正しい見極めが重要になってきます。熱中症の重症度はⅠⅡⅢの3段階に分かれています。

Ⅰ度は、軽症です。症状としては、めまい、立ちくらみ、生あくび、大量の発汗、筋肉痛、こむらがえりなどが挙げられ、意識障害は認めません。Ⅰ度の症状が改善傾向である場合のみ、現場の応急処置と安政のみで大丈夫ですが、Ⅰ度であっても改善傾向が見られない場合、医療機関を受診する必要があります。Ⅰ度の場合の治療法は、冷たい所での安静、体表を冷却、経口で水分とNaの補給になります。

Ⅱ度は、中等症です。症状としては、頭痛、嘔吐、倦怠感、虚脱感、集中力や判断力の低下などが挙げられ、現在の年月や時刻、自分がどこにいるのかといった基本的な状況把握は出来ます(このことを見当識という)が、意識ははっきりしていません。Ⅱ度が疑われるような症状がある場合、熱中症患者自身が重症度分類の判断を行ってはいけません。意識がはっきりしておらず、集中力や判断力の低下がみられるからです。Ⅱ度が疑われる場合、必ず周囲の人が重症度分類の判断を行いましょう。治療法としては、医療機関を受診し、体温管理、安静、充分な水分とNaの補給を行います。水分とNaの経口摂取が難しい場合、点滴にて摂取します。

Ⅲ度は、重症です。見当識障害が見られて、けいれん発作。入院が必要なほどの肝臓、腎臓の障害。詳しい理由は説明しきれないので詳しくは省略しますが、血液凝固異常(DIC)。この3つのうちどれか1つでも当てはまる場合をいいます。具体的な症状としては、呼びかけや刺激への反応がおかしい、会話がおかしい、体ががくがくとひきつける、まっすぐに歩けない、体に触れると熱いなどが挙げられます。Ⅲ度は、本人はもちろん周囲の人にも判断することが難しいので、救急隊員や、病院到着後の医師の診察・検査によって診断されます。Ⅲ度が疑われる場合、直ちに救急搬送する必要があります。治療法としては、入院、Ⅲ度の中でも重症の場合は、集中治療室での加療が必要となります。体温管理として、体表冷却だけでなく、体内からも冷却を図ります。また、冷却のみならず、呼吸管理、循環動態の監視、DICの治療も必要になってきます。
(参考)日本救急医学会熱中症分類2015

熱中症の死傷者数の分析

地球温暖化が熱中症の増加を招いた

熱中症は高温環境であることが重要です。では、地球温暖化によってどれほどの影響があるのかを見ていきましょう。

下のグラフによると、この100年で年平均気温が0.7度ほど上昇していることが分かります。地球温暖化の原因は温室効果ガスです。温室効果ガスがあると、太陽光を反射して地表から地球外へ向かう赤外線をよく吸収して熱が大気に蓄積されるため、地表の温度が上昇します。

気象庁 世界の年平均気温
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/an_wld.html)より引用

温室効果ガスは、76%が二酸化炭素です。化石燃料の燃焼や、セメントの生産による二酸化炭素濃度の上昇こそが地球温暖化を引き起こしているといえます。

気象庁 Japan Meteorological Agency
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/chishiki_ondanka/figs/p04.png)より引用

そして、地球温暖化の影響として熱中症の増加が挙げられます。

倉庫/工場においての熱中症の原因と対策 | 株式会社西田技巧
https://thefirstfan.jp/blog/wp-content/uploads/2020/07/%E5%B9%B4%E6%AC%A1%E5%88%A5%E7%94%B7%E5%A5%B3%E5%88%A5%E7%86%B1%E4%B8%AD%E7%97%87%E6%AD%BB%E4%BA%A1%E8%80%85%E6%95%B0.jpg)より引用

2000年代に入るまで熱中症はめったにない疾患だということに驚いた人も多いのではないでしょうか。年平均気温の上昇に伴い、熱中症死亡数が増加していることがよくわかると思います。

熱中症は、近年大きくクローズアップされていて、基本的な対策が進みつつあるにもかかわらず、死亡者数は大きく上昇して高止まりが続いています。

熱中症が男性に多い理由は仕事

どの年度においても、男性が女性を上回っているのには、熱中症になりやすい業種である建設業のほとんどは男性が従事しているからです。建設業は、炎天下での長時間の作業が多く、熱中症を誘発しやすいことは想像に難くありませんね。建設現場は、過酷な環境となることがしばしばあり、日照だけでなく、輻射熱にさらされる環境、休憩所を設置することが難しい環境、水道の整備が困難な環境などがあり、基本的な熱中症対策をとることが難しい環境が多くあるのです。

輻射熱とは、物体が発するほうしゃねつのことで黒球温度(℃)で表します。黒く塗った銅製の直系15cmの球に棒状温度計を差し込んだ黒球温度計というもので測定します。この銅製の黒い球の内部で輻射熱が発生しています。黒にしているのは、太陽光も輻射熱なのですが、太陽光による輻射熱の影響を排除するためです。黒球温度計が示す温度と気温の差が実効輻射温度となります。黒球温度計は、気温と異なり、瞬間的な輻射熱量の変化を測定することは出来ません。15~20分ほど測定に時間がかかるので注意が必要です。

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熱中症の多い業種TOP3をご存じですか? 業種別の熱中症死傷者数
https://safetyhelmet.work/wp-content/uploads/2018/06/c3a3ba01c5a32696d2e72962842da3f3.jpg)より引用

屋内でも熱中症になることがある

建設業が最多なのは、理解できたとして、製造業にも熱中症が多い原因は何でしょうか。製造業は、屋内作業であるため、炎天下にさらされることはありません。また、大きな構内であるため、熱中症になりやすい環境のイメージはないかもしれません。しかし、工場の中には膨大な数の従業員がいて、工場は24時間365日連続で稼働していることが多いです。多少体調が悪くても、任意のタイミングで休憩が取りにくいことも遠因かもしれません。また、作業工程内に高熱物をあつかうことがしばしばあり、高温環境にさらされることがあります。

熱中症は高齢者が発症しやすい

大体の病気は、高齢者が発症者しやすく若者の方が発症、重症化しにくいのは、近年話題になっているオミクロン株の重症化リスクなどから周知の事実だと思います。熱中症も例に漏れず、高齢者の方が、若者より約2倍かかりやすいことが分かると思います。

高齢者が熱中症になりやすいのには、高齢者特有の理由があります。高齢者は上記のような労働環境にさらされることはあまりありません。そもそも、定年退職している人が多いので、労働に従事している人自体少ないです。しかし、高齢者の身体的特徴に注目すると、高齢者に熱中症が多い理由が分かってきます。

普通、暑いとのどが頻繁に渇いて水分を摂取する機会が増加すると思います。しかし、この、水分を欲しいと思う機構は年齢を重ねると弱くなってきます。口の渇きを感じにくくなると、水分不足になっても十分な水分を摂取することが難しくなってきます。

高齢者は~水分、電解質の異常について~の項目で伝えたような経路とは別で、熱中症を発症します。汗をかかなくても水分摂取自体が不足することで、脱水を引き起こします。このとき、汗をかいていないので、Naイオンの量は減っておらず、水分だけが減っているため、Naイオン濃度は高い状態になっています。この機序によって発症した熱中症は、一般的な熱中症よりも口渇や意識障害が顕著です。

ニュースで、独居の高齢者が冷房の効いた環境にいたにもかかわらず、熱中症を発症していて、意識障害のために自分で通報することも出来ず亡くなってしまうという例を散見するのはまさにこのケースです。

まれに、夏以外でも熱中症を発症する人がいますが、その人も酷暑環境というよりは、水分摂取量が少ないことによる脱水が原因の可能性があります。

なお、死傷千人率は、死傷者数と雇用者数(令和元年労働力調査結果)より、算出した
 
日本クレーン協会 2019年職場における熱中症の発生状況(確定値)等について
http://www.cranenet.or.jp/hourei/202007-1_old.html)より引用

熱中症の対策

対策は単純ではない

ここまで読んでこられたみなさんは、熱中症は、屋外での炎天下で起こるといった考えから、水分摂取(しかもNa濃度にもこだわった)の重要性や、屋内でも熱中症が起こる、熱中症は日陰で休むだけでは危険な場合が多い、炎天下だけでなくても、脱水だけで熱中症になることもあるなど、多くの視点を獲得できたと思います。

ここまで、熱中症を正確に理解したならば、熱中症についての的確な対策を取っていくことができます。熱中症の対策は、気温だけでなく、湿度、輻射熱などさまざまな要素を組み合わせて考えて行く必要があります。熱中症の対策に必要な指数を説明し、特に代表的なものについて詳しく掘り下げていきます。

温熱指数は複数ある

ある環境が不快か否かを判断することは難しいです。人によっては、不快だと感じても別の人にとっては不快だと感じない可能性があるからです。不快か否かを判定するのに主観性を出来るだけ排除するためには、何か基準になる指標が必要です。その指標は、気温、湿度などといった単純なものだけでなく、複雑な組み合わせによってできます。

例えば、気温が30度であっても、湿度が低い場合、不快であると感じる人は少ないです。しかし、気温が25度であったとしても湿度が高い場合、不快であると感じる人は多いです。
ここでは、熱中症の指標を紹介していきます。各指数は、気温、気湿(湿度)、気流、輻射熱の4つの組み合わせで出来ています。

不快指数DI

まず、不快指数DIです。これは、気温と気湿を用います。梅雨などの蒸し暑さによる不快さの度合いを測定するのに用いられます。

DI=0.72(乾球温度+湿球温度)+40.6

で表され、日本人では、不快指数DIが72で2%の人が、75で9%が、77で65%が85で93%が不快だと感じます。

感覚温度(有効温度)ET

次に、感覚温度(有効温度とも)ETです。これは、気温、気湿に加えて気流も用います。この指標は、気温、湿度、気流の各条件が変化した時の温度感覚を比較するものになります。比較するためには、感覚温度図表というものを用います。輻射熱を用いないので、直射日光の当たる場所などの輻射熱の影響が大きい場所では参考になりません。感覚温度図表は、湿度100%、無風状態での人の温度感覚を基準としています。つまり、感覚温度20℃は、気温20℃、湿度100%、気流0m/sと同じ温度感覚を表しています。

左の軸が乾球温度、右の軸が湿球温度、帯状になっている部分と並行になっている0から7.50までの数値が気流になります。帯と垂直にある値が感覚温度になります。読み方としては、乾球温度と湿球温度を軸どうし、直線で結び、帯との交点のうち、測定した気流との交点における感覚温度を読む形になります。例えば、温度25℃、湿球温度20℃、気流1.0m/sである場合、感覚温度は21.5℃であります。

修正感覚温度(裕子感覚温度)CET

次に、修正感覚温度(有効感覚温度ともいう)CETです。これは、気湿、気流、輻射熱を用います。これは、感覚温度を求めるときの乾球温度の代わりに黒球温度を用いたものです。この指標でも、感覚温度ETと同様に感覚温度図表を用います。こちらは、乾球温度ではなく黒球温度を用いているので、直射日光の当たる場所、高温物体の近くで作業するときなど、輻射熱の影響を考慮しなければならないときに用いることができます。

湿球黒球温度指数WBGT

最後に、湿球黒球温度指数WBGTです。これは、気温、気湿、輻射熱を用います。暑熱環境における、労働、作業の熱ストレスの評価、スポーツ活動時における熱中症予防の指標として用いられています。屋内と屋外で求め方が異なります。

屋内WBGT(℃)=0.7×湿球温度+0.3×黒球温度
屋外WBGT(℃)=0.7×湿球温度+0.2×黒球温度+0.1×乾球温度

屋外では、輻射熱の影響だけではなく、気温の影響も考慮していることが式より分かります。現在の日本では、このWBGTこそが熱中症対策の指標としてもっとも使われています。公式は、このような複雑な計算をしなければなりませんが、実際は、直接WBGTを測定する機械がたくさん売られているので、上の公式を使うことはありませんが、定義を理解しておくことは大切なので紹介しました。

WBGTは単位は℃ですが、気温を表しているわけではないので注意しなければなりません。以下では、WBGTを利用した熱中症対策を紹介していきます。

WBGTを活用した熱中症対策

日本生気象学会「日常生活における熱中症予防指針Ver.3」(2013)によると、WBGTが31℃以上である場合、危険と判断されます。高齢者においては安静状態でも熱中症を発症する可能性が高いとされています。外出はなるべく避けて、涼しい室内に移動する必要があります。

WBGTが28℃以上の場合、厳重警戒と判断されます。すべての生活活動で熱中症を発症する危険性があり、外出時は炎天下を避け、室内では室温が上昇し過ぎないように注意する必要があります。

WBGTが25℃以上の場合、警戒と判断されます。運動や激しい作業(これらを中等度の生活活動という)をする場合、熱中症になる危険性があり、中等度の生活活動を行う際は、定期的に十分な休息を取り入れる必要があります。

WBGTが25℃未満の場合は、一般に熱中症を発症する危険性は低いが、激しい運動や重作業を行う場合は、注意が必要です。

中高生の部活動を例に考えてみると、運動部の場合、激しい運動、あるいは中等度の生活活動レベルの運動をしていると考えられます。その場合、WBGTが25℃以上の場合は、かなりWBGT指数に敏感になって対策を施さなければならないということが分かると思います。もし、夏休みに部活動がある日であっても、WBGT指数が高い場合、練習の軽減あるいは中止を決断する方が賢明かもしれません。

マスクと熱中症発症の関係

近年、新型コロナウイルスの影響で夏場でも当たり前のようにマスクを着用するようになってきました。しかし、夏場にマスクを着用し続けることは熱中症のリスクになります。ここでは、熱中症とマスクの関係を見ていきましょう。

マスクを着用していると、呼気が再び吸気となる割合が高くなります。酸素と二酸化炭素の濃度はすぐに外気と同じになるのでガス交換は十分に行われますが、呼気に含まれる湿度はマスクの外にすぐには逃げてくれません。呼気により、口腔内は湿潤環境が保たれます。すると、体表からの蒸発による水分の喪失に気付きにくく、水分補給が遅れ、脱水になりやすくなります。これは、~熱中症は高齢者が発症しやすい~でお伝えしたように高齢者が口の渇きに気付きにくいのと似ています。これを予防するためには、口の渇きを感じる前に定期的に水分補給をする必要があります。

マスクをしているときは、高温多湿の環境では、特に水分補給に気を使いましょう。また、激しい運動は控えるべきです。

このご時世で、外でマスクを外すことは勇気がいることかもしれません。しかし、2メートル以上離れている場合、マスクを外すべきです。マスクを外すと、熱中症のリスクを下げることができます。

エアコンの正しい使い方

屋内での熱中症を予防するために、適切なエアコンの使用が必要になってきます。エアコンはとにかく冷やせばいいのだろうと思っている人は要注意です。

エアコンの設定温度が高すぎては、屋内での熱中症のリスクを低減させることが十分にできず、不適切ですが、低すぎてもいけません。エアコンの設定温度が低すぎると、冷房病になる可能性があります。冷房病とは、過冷房や温度差が大きい環境への移動の繰り返しにより発症します。症状としては、自律神経失調症に準じます。倦怠感、脱力感、頭重感、四肢冷感などが挙げられます。夏バテと勘違いされる方がいますが、別の病気になるため、エアコンの設定温度を下げ過ぎることはやめておく方が良いです。

エアコンは、パイプを通して室外機で外気と接続されているため、換気機能もあると思っている人は多いのではないでしょうか。しかし、業務用の巨大エアコンを除いて、ほとんどの家庭用エアコンに換気機能はありません。エアコンを使っているとき、冷気が逃げるのがもったいないからという理由で換気を怠っている人はたくさんいると思います。しかし、換気をおこたると、さまざまなリスクがあります。

換気をすると、空気が乾燥し過ぎることを防ぐ、ホコリ、塵を減らす、過冷房を防ぐなどのメリットがあります。逆に換気を怠ると、乾燥したのどにホコリ、ダニ、菌、ウイルスなどが付着し、種々の病気を引き起こすことがあります。シックハウス症候群という病気になることもあります。

換気の方法は単純で、窓やドアを2か所以上5分ほど開けるだけです。換気扇や扇風機を併用するとなお良いです。

まとめ

熱中症について深く考察してきました。このように熱中症の発症の原因や病態、発症者や発症の特徴、対策のもととなる指標について理解を深めると、水分補給をしましょうといった大雑把な熱中症対策ではなく、厳格な対策を講じることが出来ると思います。地球温暖化により、熱中症のリスクはどんどん上がっているので、あいまいな対策のままだと熱中症が防げない時代がやってきます。そうならないために厳格な熱中症対策を施し、熱中症を防ぎましょう。

WRlTER この記事を書いたのは
家庭教師ライター F.I

家庭教師ライター F.I 家庭教師ファーストの登録教師。和歌山県立医科大学 医学部に在学中。学生ながら、家庭教師指導人数は20名以上。塾講師経験も。